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「ワイン工房あいづ」訪問記

東京から東北自動車道を一路北へ。郡山から磐越道に入ると、会津磐梯山の雄大な姿が見えてきます。その磐梯山の麓、猪苗代湖からほど近い場所に目指す「ワイン工房あいづ」はありました。

JR猪苗代駅からだと徒歩約5分。決して大きな建物ではありませんが、個性的な外観は、まさに工房と言った趣きです。

この工房を営む本田毅さんは、人間総合科学大学人間科学部の卒業生、つまり私達の同窓生なのです。

本田さんは、ご自宅のある会津若松から工房まで、普段は車で40分かけて通っているそうです。

「でも冬は1時間かかるね。ブリザードの時もあるから…そういう時は帰っちゃうよ、何も見えなくて危ないから(笑)。この辺りは自然が素晴らしいので、普通はドライブを楽しめるよ」。

車は一路北へ 前方に「宝の山」と唄われる会津磐梯山が見えてきました

こちらが目的地の「ワイン工房あいづ」です 外観が可愛いですよね

ワイン造り

工房の内部を案内して下さり、ワイン造りの工程も教えていただきました。ここでは簡単な紹介でご容赦ください。

まず房と粒を分離して粒をつぶす機械(除梗破砕機)に原料となるブドウを入れます。この作業はブドウを運んできた農家の方が手伝ってくれるそうです。

つぶされた実と果汁は、特殊な「もろみポンプ」でタンクへ運ばれます。このタンクで一週間前後発酵させます(一次発酵)。

ここで使っているタンクはよく見るステンレス製ではなく、500Lの白いポリタンクでした。

軽いので一人でも持てること、台所用の除菌剤が使えるので衛生管理が容易で商品の安全性が高まるといった言葉に、実際に作業されている方の経験を感じました。

タンクで一週間ほど発酵させたら、その上澄みをガラス製の容器へ小分けして更に3〜4週間発酵させます(二次発酵)。

ガラス容器はイタリア製で、容量23リットルの小さなガラス樽です。その容量は720ミリリットルボトルの約30本分に相当します。このガラス樽がずらっと並ぶ様子は壮観でした。

よくある木の樽ではなく、このガラス樽での発酵・熟成が「ワイン工房あいづ」の特徴。木の樽の香りはしませんが、原料以外の成分が入らないのでスッキリとして、原料の味がストレートに出るといったメリットもあります。

ガラス樽でワイン醸造をするのは、北米などでは珍しく無いそうです。

さっそく本田さんに工房の中を案内いただき、ワイン造りの工程を教えていただきます

500リットルの白い「もろみタンク」 衛生的に管理されています

大量に並ぶ23リットルのガラス樽 キラキラと光ってキレイでした

発酵は20℃前後からスタート。その後は冷えても発酵は継続しますが、多くの時間がかかります。

「寒い時期は基本的にやらない。ただ、頼まれた時は暖房入れたりして発酵させる。でも広い部屋を暖めるのは大変なので、専用の小さい部屋を作って暖めてるよ」。

実際にその部屋を見せていただくと、ガラス樽の中に変わった色の液体が…。ブドウではなくサルナシだそうです。

このサルナシのように、生産者の方が「作ってくれ」と原料持ち込みでやってくることも多いそうで、去年はブルーベリーでも作ったとか。こういった対応は小さいワイナリーだからこそ。

日本では珍しいですが、例えばカナダなどには自分用に持って帰るためのような、小さいワイナリーがたくさんあるそうです。

つぶしたブドウをそのまま寝かせれば自然に発酵が始まりますが、安定した発酵のためには酵母菌が必要。ちゃんとワイン用に選びぬかれたものがあり、それを輸入しているそうです。

酵母は糖を分解してアルコールとガスを生成し、糖が無くなると死んでオリとなって底に沈みます。こうなると次の段階は熟成です。

ちなみに、ブドウの品種が一緒でもワインの仕上がりは毎年違うそうです。

暖房された部屋の奥に変わった色のワインが…サルナシだそうです!

「温めると発酵が進むんだよ」 本田さんが手を添えると急に泡が発生するので嬉々として撮影中

オープンまで

本田さんは長年、学校の先生をされていました。

定年を迎えるにあたり、職場に残ることも出来ましたが、それまでの仕事以外のこともしてみたいと思い、いろいろと探してみたそうです。

面白そうなものを見つけてはチャレンジしてみたいと言う本田さんに、奥さんが「それはダメ、これもダメと言うんだよ(笑)」。

そして人間総合科学大学へ定年と同時に編入。大学で数ヶ月勉強するうちに、やはり何かできることはないかと探し、ワイン造りに行き着きます。

まずは研修ということで北海道へ。その後カナダへも向かいます。カナダ研修には奥さんも同行しました。「私が旅行好きだから」とは奥様の弁。

カナダでは朝から晩まで、工房で実際に繰り返し研修を積み、みっちり鍛えられました。通訳の方もいましたが、専門用語が多く、かつ説明が早口なので大変だったそうです。

ひとつひとつ丁寧に教えてくださる本田さん

店内にたくさん並ぶ商品 ヤマブドウのワインもあり、どれも美味しそうですね〜

ワイン造りの技術を習得したものの、工房のオープンには全く別の苦労がありました。

「免許のために税務署には20回以上行った。土地・建物、設備の準備とか・・・」。

そう、まず酒造免許を取るのが大変なのです。

また取得しても、「酒造免許は毎年6キロリットル以上の出荷が条件。ワインだと約9,000本、1日30本近く出荷しないといけない。原料のブドウは、フルボトル1本に約1キロ必要だから、毎年10トン近く必要ってことになる。ヤマブドウならもっといる。10トンのブドウを収穫するには、じゃあ畑はどのくらいの広さがいるのかって…それは無理だよね」。

そこで輸入果汁でワイン造りを始めたそうです。

また工房の建物も、当初はお住まいの会津若松で物件を探したものの、条件にあうものがありませんでした。

やっと見つけたのが猪苗代駅近くのこの場所。工房になる前はお好み焼き屋さんだったとか。建物のリフォームはかつての教え子たちがやってくれたそうです。

そして2007年1月7日、ついにお店がオープン。ところが当日は大雪。この時も教え子たちが除雪してくれました。

ワイン1本作るのにブドウが1kgも必要なんですね 飲むのはすぐでも作るのは大変…

工房内の壁には「磐梯山ブランド認証」が掲げられていました

ちなみに当初の数年は税務署員が毎年来て、職員二人が朝から晩まで帳簿とつきつけ合わせるなど、お互いに大変な作業だったそうです。

酒税は毎月申請(2ヶ月後支払い)する必要があるので当然手続きも毎月必要。

普段の記帳も、例えば容器を移すときにはその前後で記録する必要があるとのことで、200本も移すと記録も膨大になります。

また使う容器は、事前に水を入れて容積を正確に測ってデータをとるといった作業も必要だとか。「お酒を作るところでは当たり前なんだけど、それも知らなかった。怖いもの知らずだから始められたのかも・・・」。

最近は、JR猪苗代駅で電車降りた方が次に乗るバスを待つ間、工房へ訪ねてくることも増えているそうです。待ち時間に見学できる場所ということで、観光協会から紹介されているとの事でした。

駅から近いことや、小さなワイナリーという面白さ、ワインという商品の人気から考えても納得です。

こちらはこじんまりとしたJR猪苗代駅の駅舎です シーズン中は大賑わいなのでしょうね

開放的な猪苗代駅前の風景 ここから工房まで徒歩で約5分です

生い立ち

本田さんのご実家は山形県南陽市で、ブドウを栽培されていたそうです。

「私が若い頃はブドウ出荷も手伝ったけど、ワイン造りはしてなかった。それが今ではワインを自分で造るなんてね。当時、房の大きさや形で出荷できなかったブドウを畑の隅に廃棄用として集めておくと自然発酵していた。ワインっていうのは自然の恵みなんだね。でも…それに税金をかけるのはどうなの(笑)」。

若い頃本田さんが進んだのは電気工学。

ワンボードマイコンの頃からアマチュア無線をやったり、衛星を使ってFAXのやりとりをしたりしたとか。とんでもなく進んでますね…。

他にも無線でデータ通信をおこなって、例えば水力発電のゲート制御を遠隔で操作する模型なども作ったそうです(プロトコルはTCP/IPだとか)。

「以前はSFだったことが、今なら実現できていることがたくさんある。でも技術が悪いことにも使われていることが残念だね」。

そんなふうに歩まれてきた世界と今のワイン醸造は、“ものづくり”という点では共通しているね、と笑っておっしゃいました。

3段の棚で静かに発酵しているワインたち 美味しくなってくださいね

こちらはワインをボトルに充填するマシーンです 工房は隅々まで清潔でピカピカでした

人間総合科学大学

大学のお話も伺いました。

卒業は2007年3月でしたが、この工房のオープンも同じ年の1月だったので、忙しすぎて卒業式に出られなかったそうです。もちろん卒論も大変でした。

人間総合科学大学は、ネットで検索して知ったそうです。

「自分の知りたい分野があったし、良い先生がいらっしゃったので。スクーリングにも行ったね。仙台にも行った。本学にも行ったよ。あそこは駅から少し歩くよね…畑を見ながら歩いたね。ネットで試験、授業も受けた。教員の方々が非常に熱心だったおかげで続けられた」。

途中からワイン造りをやり始めたので、最低限の科目しか選べなかったのが残念だったそうです。

印象に残っている先生を尋ねると、青木先生(生命倫理)や、卒論を担当していただいたという筒井先生(心身健康)のお名前が。「これも聞きたかった、あの授業をもっと選択したかったというのがある」。

卒業後、大学と同窓会からいろいろな案内があるものの、出席は難しいそうです。

「やっぱり“看板”を出すというのは大変なこと。臨時休業すると後でお客さんから『行ったのに休みだった』なんて言われて。せっかく来てくださるのだからガッカリさせたく無いし」。

大学の取り組みについて、「例えば中学生などに、専門的なことを易しく噛み砕いて教えるなんてことがあっても良いのでは。私が子供の頃は未だ研究中だったことも、今はだいぶわかってきているなんてことがたくさんあるので・・・」とのお言葉も。

本田さんには2014年10月に開催された華蓮会設立10周年記念行事の出席者にお持ち帰りいただくオリジナルワインをご提供いただきました

ワインは当日の祝賀会でも振る舞われ、同窓生が作ったワインとして先生方をはじめ皆さまに大好評でした

東日本大震災

福島ということで、東日本大震災の時の状況をお尋ねしました。

ワインをガラス樽に入れて熟成させる際は3段の棚に並べるのですが、最上段のガラス樽が落ちてしまったそうです。

「ガラス樽が割れて、お店の入口からワインが流れ出てしまった。でも仕方ない。震源に近い人たちはもっともっと大変だったわけだから・・・」。

会津は「3.11」以降、観光客が減ってしまったそうです。それでも2013年は「八重の桜」のお陰でたくさんの人出があったのですが、「今年は反動で人が少ない。風評を無くすことは難しいけど…」と残念そうにおっしゃっていました。

美しい猪苗代湖 空が広いです ワイン工房の周辺にも見るべき場所がたくさんありました

猪苗代湖は会津磐梯山の山頂から見るとこんな感じでした

たくさんの観光客を乗せて会津へ向かう「あいづライナー」 緑の海のような田園を進みます

これから

「ワイン工房」のこれからを伺うと「後継者を探している」。希望する人には工房の全部を貸しても良いとまで…。

「“ワイン造り”というと夢があるが、やはり製造業。力も体も使うのでキツイ。また原料、生産、出荷、経理などをすべてやらないといけないから大変」。

そして人出不足。周辺の農家の方が、冬になら手が空くのでは…と思ったのですが、実際には冬になるとスキー場やホテルへ働きに行ってしまうそう。さすが国内有数のスキーリゾート、会津磐梯エリアです。

それでも、目的を持ってチャレンジするのは楽しいよと笑って話され、「これから発泡ワインをやっていきたい。ヤマブドウでやってみる。後はりんごシードル、この2つに絞ってやっていく」とのお言葉が。

発酵の際に炭酸ガスが出ますが、本来なら完全に発酵が終わってから出荷するので、商品にガスは残りません。ところがワインボトル内で発酵が続くと、発生したガスが炭酸としてワインに溶け込み発泡ワインとなります。

ボトル内で発酵するので、通常のコルク栓では抑えきれず、王冠やプラスチック栓と針金で封じ、また安全ため厚みのあるボトルを使用するなどの対策が必要になります。

ボトル内での発酵が弱いと発泡も弱くなり、強すぎると危険があり、加減が難しい。日本で赤ワインの発泡ものは珍しいとのことで、チャレンジのしがいがありそうです。

このように、目標を定め、それを実現するためにはどのような手順・分量・加減が良いのかを探るのが楽しいとおっしゃる本田さんは、大きなシミュレータを前に多くのパラメータを調整しながら最高の結果を導こうとする「ものづくりの匠」のようでもありました。

ボトルに王冠をするマシーンはイタリア製だそうです

オリジナルのラベルが貼れるということで様々なオーダーがあるそうです

おわりに

お仕事時間中の訪問にも関わらず、丁寧に工程やワインの基本を説明くださり、また10周年記念行事向けのワイン提供にも快く応じてくださいました。本当にありがとうございました。

ワインと自身のチャレンジについて静かに、しかし熱く語る本田さんと、それを見守る奥さまの温かい眼差しが印象的でした。

ワイン醸造は「人類伝承の結晶」とも言えますが、本田さんの「発酵は人類が出現する前から起きていた大自然の恵み」という言葉には、その人柄が出ている気がしました。

「ワイン工房あいづ」に興味を持たれた方は、一度ホームページをご覧になり、機会があればお店を訪れてみてはいかがですか?

(取材:2014年7月)

熟成中のワインをのぞき見しているところです 美味しくなったら迎えに来るからね〜

最後に工房の前でパチリ 本当に有難うございました さあ次はあなたが訪ねる番です!

2015.01.16掲載

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